ホイコーロー
「いらっしゃいませー!!」
風に乗って女性の叫び声が聞こえた。
だが、これは聞き慣れた声だ。
どうせまたチェスで負けたのだろう。
僕は老婆にブレーンバスターをかけながら、颯爽と店に入っていった。
席に着くとウエイトレスが
「当店のご利用は初めてですか?」
と、まるで「味噌汁にお豆腐は入れますか?」みたいな滑稽な質問を投げかけてきた。
この店はいつもそうだ。
機械的にただ淡々と働くだけのウエイトレス。
彼女らに輝かしい未来はあるのだろうか。
まぁ、僕には関係のないことである。
「レギュラー満タンで」
ウエイトレスは満足したようで、
爪楊枝で耳を掘りながら暗闇に消えていった。
僕はおもむろにカバンから食器用洗剤「ジョイ」をとりだした。
奴との取引のためだ。
これがなければ今月のDeAGOSTINIを集めることができない。
10分後、奴より先にウエイトレスが来た。
彼女は仕事を果たしに来たのだ。
右手には「レギュラー」と書かれたジョーロを持っており
「どこ入れたらええんやぁ?」
とジョーロを傾けだした。
これはまずい!このままではレギュラーで机が満タンになってしまう!
あぁ、こんな時に
木で出来た容器でもあればいいのに。
桶屋が儲かる。